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札幌地方裁判所 平成元年(わ)478号 判決

主文

被告人甲を懲役一五年に、被告人乙を懲役一年に、被告人丙を懲役一年二月に、被告人丁を懲役一年四月に処する。

未決勾留日数中、被告人甲、被告人乙及び被告人丙に対しては各一一〇日を、被告人丁に対しては八〇日を、それぞれその刑に算入する。

被告人甲から、押収してある回転弾倉式けん銃一丁(平成元年押第一二〇号の一)、空薬きょう五個(同押号の二、四、六及び八)及び弾頭五個(同押号の三、五、七、九及び一〇)を没収する。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人丁は暴力団体「A会三代目B一家丁組」の組長、被告人丙、同甲、同乙はそれぞれ同組の構成員であるが、被告人丁は、昭和六三年一二月初めころ、暴力団体「C一家D二代目E分家F二代目G組」の組長G(以下「G」ともいう。)に対し、その求めに応じてそれまでの貸金残三五〇万円に加え、更に一〇〇〇万円を一週間の期限で貸与したものの、期限が過ぎても一向に返済されないばかりか、平成元年一月上旬ころからはGに対し自分の方から連絡も取れなくなったため、配下の組員に命じてその所在を捜させていた。他方、Gは、H組I組K会などの暴力団体からも多額の借財を重ね、その返済を滞らせたことから暴行を受けるなどしたため、身を隠しながら金策に努めていたが、結局、金策の目処も立たないまま同年四月五日札幌に戻って来た。

被告人丁は、翌四月六日午後二時ころ情報によりGが札幌に戻ったことを知り、更に同日午後九時ころ外出先で被告人丙からGが帰宅したとの連絡を受けるに及び、他の暴力団体に先立ちGとの間で自己の貸金の件をはっきりさせておきたいと考えるに至ったが、一方被告人丙においても被告人丁の意図を察してそのころ組長を丁組事務所に集合させるべく被告人甲に連絡を取ったりしたところ、被告人甲においてはG宅に話をつけに行くものと推測し、場合によっては相手から得物で反撃されることもありうると考え、実包五発が装填されている回転弾倉式けん銃一丁を密かに準備のうえ丁組事務所に出向き他の組員と共に同事務所で待機した。その後、被告人丁は、翌四月七日午前二時ころ同事務所に戻り、待機していた配下組員の被告人甲、同丙、同乙及びLに対し、G宅に押し掛けることを指示し、かくて被告人四名は、右Lの運転する普通乗用自動車に同乗して同日午前三時五〇分ころG宅に至った。

(罪となるべき事実)

第一  被告人四名は、平成元年四月七日午前三時五〇分ころ、札幌市豊平区〈住所省略〉所在のG方玄関前において、被告人丙が、玄関呼び鈴を鳴らし、玄関ドア内側に立ったGの養子で前記G組組員のM(以下「M」という。)に対し丁組の者であることを伝えたところ、MからGは不在である旨言われて居留守をつかわれたため、それぞれ強い腹立ちを覚え、前記Lとの間で暗黙のうちに意思相通じ、G方玄関、台所ベランダガラス等を損壊することを共謀のうえ、被告人丁及び同丙において、N所有にかかるG方玄関明かり取りガラス二枚(損害額合計四四〇〇円相当)を、被告人乙において、右N所有にかかるG方台所ベランダ窓ガラス二枚(損害額合計六八〇〇円相当)をこもごも足蹴にするなどして破壊し、もって数人共同して器物(右ガラス四枚。損害額合計一万一二〇〇円相当)を損壊した。

第二  被告人甲は、前記第一の犯行直後、G方玄関前ポーチに接するコンクリート踏み台付近において、玄関ドアが開かれ前記丁及び丙が玄関内に入ったかと思うや、直ぐに出て来たため、玄関内を見たところ、G(当時四五歳)が日本刀と覚しき得物を右手に持ち、振りかざすようにしながら、玄関ホールから玄関上がり口の式台の方に進んで来るのを認めて憤慨し、この際その機に乗じて、やくざとしての面子を保つとともに、自分の男をも上げるなどのために、咄嗟に携行していた実包五発(平成元年押第一二〇号の二ないし一〇。ただし、いずれも鑑定のため試射済ないし後記発射済なので押収物総目録上の品目表示は空薬きょう((五個。同押号の二、四、六及び八))、弾頭((五個。同押号の三、五、七、九及び一〇)))装填の回転弾倉式けん銃(同押号の一)を使用してGを殺害しようと決意し、その際Gの傍にはM(当時二五歳)がいることを認め、けん銃を発砲したときにはMに被弾させ、場合によってはMを死亡させるに至るかも知れないことを認識しながらあえてそれもやむを得ないという気持ちで、G目掛け右けん銃を発砲して実包二発を連続発射し、一発目をGの左鎖骨下胸部に命中させ、二発目をMの背部を貫通させたうえGの背部に命中させ、よって、そのころ、同所において、Gを外傷性ショックのため死亡させて殺害したが、Mに対しては加療約一〇日間を要する右背部銃創の傷害を負わせたにとどまり、同人を殺害するに至らなかった。

第三  被告人甲は、法定の除外事由がないのに、前記日時場所において、前記回転弾倉式けん銃一丁及び火薬類であるけん銃用実包五発を一括所持した。

(証拠の標目)〈省略〉

(弁護人の主張に対する判断)

被告人甲の弁護人は、判示第二の犯行について、同被告人は、模造日本刀を振り上げて同被告人に向かって来るGを認め、同人が持っていた右模造日本刀を真実の日本刀であると誤認し、自己の生命、身体を防衛するためにけん銃を発砲したものであるから、誤想過剰防衛が成立する旨主張するので、以下検討する。

まず、判示第二の犯行に関する前掲「証拠の標目」挙示の各証拠によると、

(1) 丁(以下「丁」という。)とGとは暴力団体組織上のいわゆる兄弟関係にあったが、Gは本件当時丁のほか丁組以下の暴力団体組織からも多額の借金を抱え、平成元年一月上旬には返済が滞ったことから暴行を受けたこともあり、丁もGに対する貸金の回収のため配下の組員をG宅に赴かせるなどGの所在を執拗に捜していたこと、Gは周囲の者から、喧嘩などの際決して逃げたりせず受けて立ち、実力に訴えるタイプの人間であると見られていたこと

(2) 被告人甲は、丙(以下「丙」という。)から電話で丁組事務所に来るように呼ばれた際、G宅に貸金の話をつけに行くものと推測したが、右(1)の諸事情を認識していたことから、G宅に赴けば場合によっては話合いだけでは済まず、相手から得物で反撃されることもありうると考え、けん銃を用意しようと思い立ったこと

(3) そこで、被告人甲は、自己所有のけん銃を自分のバッグに入れ、これを持って同組事務所に出向き待機していたが、同年四月七日午前二時三〇分ころ、丁組長の指示によりG宅に行くこととなり、右けん銃の入ったバッグを携えて丁組長ほか三名と共に、途中寄り道をしたものの、同日午前三時五〇分ころG組の組事務所兼自宅であるG宅に至り、丙がインターホンで来訪を告げたところ、応待に出たMからGは不在である旨居留守をつかわれたため激昂し、丁組長ほか三名と共に、玄関ドアを足蹴にしたり、玄関明かり取りのガラスや台所ベランダのガラスを足蹴にして破損するなどしたこと

(4) その後、二階から玄関ホールに降りて来たGがMに玄関ドアを開けるよう命じ、玄関ドアが開くや丁及び丙が玄関内に入り、丁が「X(Gの稼業名)、こら」と怒鳴りつけたところ、玄関ホール上にいたGが玄関上がり口の式台の方に進み出ながら、右手に持っていた模造日本刀を振り上げ「何、この野郎」と応じてきたため、丙は丁組長が危険であると感じ同人を抱えるようにしながら押し戻して玄関外に出たが、その際、丙は被告人甲や乙に「おやじを下げろ」と命じたこと

(5) この時、被告人甲は、玄関ポーチに接するコンクリート踏み台辺りに立っており、直ぐに玄関内を見たところ、約四メートル前方に、右手に持った模造日本刀を振りかざすようにしながら玄関上がり口の式台の方に進んで来るGを認めたが、右模造日本刀を真剣であると誤認し、同人が真剣で切りかかって来るものと考えて持っていたバッグの中からけん銃を取り出し、玄関内から出て来た丁らとすれ違った瞬間、その場からG目掛けてけん銃を発砲し、一発目がGに命中したのを認めながら、更に引き続いて二発目の引き金を引いたこと

(6) Gは撃たれて玄関ホール上に倒れ、同人を玄関内に居たG組の者数名が抱き抱えるようにして奥の台所に引き入れたが、被告人甲はこの様子を見て、そのまま玄関内に乗り込み、「こら、出て来い」などと叫んだこと

以上の諸事実を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右の事実によれば、Gが持っていたのは模造日本刀であり、真剣ではなかったのであるから、Gは単に威嚇するために右模造日本刀を右手で振り上げたに過ぎないと認めるのが相当であり、客観的には被告人甲らの生命、身体に対する急迫不正の侵害が存しなかったというべきである。もっとも、被告人甲が右模造日本刀を真剣と誤認したと認められるので、この点から誤想防衛ないし誤想過剰防衛の成否が問題となりうるが、右認定した事実経過に照らすと、同被告人の右誤認を前提にしても、本件では以下に述べるとおり「急迫性」の要件を欠き、誤想防衛ないし誤想過剰防衛は成立しないと解せられる。

すなわち、単に予期した侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当である(最高裁判所第一小法廷昭和五二年七月二一日決定、刑集三一巻四号七四七頁参照)ところ、本件においては、被告人甲自身、けん銃を携行してG宅に向かう際、Gらの反撃を高い確度で予期していたとまではいえないにしても、場合によってはGら相手から得物で反撃を受けることもありうると予想していたことが認められるうえ、Gが喧嘩などは決して逃げたりせず受けて立つ好戦的な男であると認識し、またGが借金に絡んで以前暴力団体の者から暴行を受けたりしたことを聞知していたことなどの事情に鑑みれば、少なくとも、暴力団体の組事務所を兼ねているG宅の玄関の明かり取りのガラス等を割るなどの違法な行動に出た段階においては、Gが日本刀などの凶器を持ち出し反撃して来ることは同被告人において十分予測された事態であったと認めるのが相当である。そして、その後被告人甲は、模造日本刀を振り上げているGの姿を認めるや直ちに携行していたバッグ内からけん銃を取り出し、同被告人とGとは玄関土間を挟んで玄関の外と玄関上がり口の式台付近との位置関係にあって、その間になお約四メートルの距離があったにもかかわらず、同被告人はけん銃を構えてGの行為を制止するなどの威嚇的行動を全くとろうともせず、丁、丙が後退して来た直後いきなりG目掛けてけん銃を発砲していること、しかも、一発目がGに命中していることを認識しながら更に引き続いて二発目を撃っていること、その後、玄関内に乗り込んで気勢を上げていることなどの事情に照らせば、被告人甲においては、共同器物損壊行為に及んだ時点で、Gの性向等からみて、同人らが日本刀などの武器を持ち出して反撃して来ることは確実なこととして予期できたというべく、そのことを予想したうえでその対抗手段として予め実包装填のけん銃を準備し、右の予期どおりGが日本刀と覚しき武器を持ち出した際、外形的には攻撃に出るように見えるGの侵害を避ける行動をとらないまま、Gに対しけん銃を連続して発砲したのであるから、右のような状況全体からみて、被告人甲は、その機会を利用し積極的にGに対して加害行為をする意思を有していたものと認めるのが相当である。

してみれば、本件においては、被告人甲が模造日本刀を真剣と誤認したという前提に立ってみても、前記判例の趣旨に照らせば、刑法三六条における侵害の「急迫性」の要件を充たさないというべきであり、誤想防衛、誤想過剰防衛が成立しないことは明らかである。したがって、弁護人の前記主張はその理由がなく、これを採用することはできない。

(累犯前科)

一  被告人甲は、(1)昭和五九年一月一一日札幌地方裁判所において覚せい剤取締法違反の罪により懲役一〇月に処せられ、昭和六一年五月四日右刑の執行を受け終わり、(2)その後犯した傷害罪により、昭和六二年一二月一八日東京地方裁判所において懲役七月に処せられ、昭和六三年六月一七日右刑の執行を受け終わったものであって、右各事実は、同被告人の司法警察員に対する供述調書、検察事務官作成の同被告人にかかる前科調書及び東京地方裁判所の判決書謄本によってこれを認める。

二  被告人丙は、(1)昭和六〇年一月一七日札幌地方裁判所において暴力行為等処罰に関する法律違反の罪により懲役一年(四年間執行猶予・付保護観察、昭和六二年九月二一日右猶予取消)に処せられ、平成元年二月二三日右刑の執行を受け終わり、(2)昭和六二年八月二六日札幌地方裁判所において火薬類取締法違反の罪により懲役八月に処せられ、昭和六三年三月二五日右刑の執行を受け終わったものであって、右各事実は、同被告人の司法警察員に対する供述調書及び検察事務官作成の同被告人にかかる前科調書によってこれを認める。

(法令の適用)

一  被告人甲に対し

判示第一の所為 刑法六〇条、暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)、罰金等臨時措置法三条一項二号

判示第二の所為のうち

殺人の点  刑法一九九条

殺人未遂の点  刑法二〇三条、一九九条

判示第三の所為のうち

けん銃不法所持の点  銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項

実包不法所持の点  火薬類取締法五九条二号、二一条

科刑上一罪の処理

判示第二の罪について  刑法五四条一項前段、一〇条(殺人と殺人未遂とは、一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、一罪として犯情の重い殺人罪の刑で処断)

判示第三の罪について  刑法五四条一項前段、一〇条(けん銃不法所持と実包不法所持とは、一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、一罪として重いけん銃不法所持の罪の刑で処断)

刑種の選択  各所定刑中判示第一及び第三の各罪についてはいずれも懲役刑、判示第二の罪については有期懲役刑を選択

累犯の加重  各刑法五九条、五六条一項、五七条(判示第一ないし第三の各罪についてそれぞれ三犯の加重。判示第二の罪については刑法一四条の制限内)

併合罪の加重  刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、一四条(最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

主刑  懲役一五年

未決勾留日数の算入  刑法二一条(一一〇日算入)

没収  各刑法一九条一項一号、二号、二項本文(押収してある回転弾倉式けん銃一丁((平成元年押第一二〇号の一))は判示第二の殺人、殺人未遂の用に供し、かつ判示第三のけん銃不法所持の犯行を組成した物、押収してある空薬きょう三個((同押号の二、四及び六))及び弾頭三個((同押号の三、五及び七))は判示第二の殺人、殺人未遂の用に供しようとし、かつ判示第三の実包不法所持の犯行を組成した物、押収してある空薬きょう二個((同押号の八))及び弾頭二個((同押号の九及び一〇))は判示第二の殺人、殺人未遂の用に供し、かつ判示第三の実包不法所持の犯行を組成した物で、いずれも被告人甲以外の者に属しないから、これらを同被告人から没収)

二  被告人乙に対し

判示第一の所為  暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)、罰金等臨時措置法三条一項二号

刑種の選択  所定刑中懲役刑を選択

主刑  懲役一年

未決勾留日数の算入  刑法二一条(一一〇日算入)

三  被告人丙に対し

判示第一の所為  暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)、罰金等臨時措置法三条一項二号

刑種の選択  所定刑中懲役刑を選択

累犯の加重  刑法五六条一項、五七条(再犯の加重)

主刑  懲役一年二月

未決勾留日数の算入  刑法二一条(一一〇日算入)

四  被告人丁に対し

判示第一の所為  暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)、罰金等臨時措置法三条一項二号

刑種の選択  所定刑中懲役刑を選択

主刑  懲役一年四月

未決勾留日数の算入  刑法二一条(八〇日を算入)

(量刑の事情)

本件は、被告人丁がGに貸した金員の返済に絡み惹起された事件であって、被告人らは貸金の返済を強請すべく、未明の時間帯に集団でG宅に押し掛け、共謀のうえ、玄関ドアを足蹴にしたり、ガラスを割ったりするなどして共同して器物を損壊し、更に被告人甲において所携のけん銃を用いて殺人、殺人未遂の犯行に及んだという事案である。そして、本件事案の内容、性質、すなわち判示第一の犯行が貸金の回収のためとはいえ、集団の力を借り、一方的に暴力的威圧を加えて物事の解決を図ろうとしたもので誠に粗暴であり、また、判示第二及び第三の各犯行が暴力団特有の短絡的、自己中心的な動機に根差し、人の生命、身体を軽んずるものであることなどに照らし、本件が全体として極めて卑劣かつ悪質な犯行であることは明らかである。なお、右第二及び第三の各犯行は、暴力団組員によるけん銃使用の殺傷事件ということもあって、地域住民はもとより社会一般に与えた不安感は甚大で、その意味でも、被告人甲が厳しく責められるべきことはいうまでもない。

更に、個別的に被告人らの刑責を考えるに、被告人甲については、他の被告人らと共謀のうえ、共同して器物を損壊したほか、所携のけん銃を発砲して一人の生命を奪い、一人に傷害を負わせたもので、その結果は余りにも重大であり、同被告人は場合によっては相手から得物で反撃されることもありうると予想しつつ、実包五発を装填したけん銃を予め準備し、しかもやくざとしての面子を保つとともに、自分の男をも上げたいなどという心情から個人的には何ら怨恨のないG及びその配下の者を安易に殺傷しているのであって、その動機の酌量の余地は全くない。また、その態様においても、けん銃を使用し、約四メートルという至近距離からGに対し身体の枢要部である胸部付近を狙って発砲しているばかりでなく、周囲に数名の者がいることも意に介しないなど極めて危険かつ凶悪である。加えて、死亡した被害者の無念さはもとより、残された遺族の悲嘆も大きく、就学中の二人の子供に与えた影響には計り知れないものがあること、また、本件においてはいわゆる「手打ち」となり、暴力団体組織同士の本格的な抗争事件には発展しなかったものの、その可能性がなかったとはいえず、特に近時、この種の銃器を用いた暴力団抗争事件が増加しており、一般予防の見地からも看過できないこと、更に、同被告人は、昭和五二年ころから暴力団体の構成員となり、これまで累犯前科のほかにも多数の前科を有するなど、反社会的性格が顕著であること等からすれば、同被告人の刑責は極めて重大である。ただ一方、被告人甲の所属する暴力団体組織の上部団体から被害者の遺族に対しある程度の慰謝の措置が講じられたこと、捜査段階及び当公判廷において反省の情を示し、今後暴力団体から脱退することを誓っていること、G宅に押し掛けるに至ったのは被告人丁の指示によるものであることなどの事情もみられ、こうした事情は被告人甲に有利に斟酌できる。

次に、被告人乙は、本件犯行の際、玄関ドアを蹴り、ベランダ窓ガラスを蹴破り、更に自転車を玄関ドアに投げ付けるなど極めて積極的に犯行に加担していること、昭和六〇年から暴力団体の構成員となって無為徒食の生活を送り、昭和六三年六月に覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反の各罪により懲役一年六月(三年間執行猶予・付保護観察)の判決を受け、保護観察付執行猶予中の身でありながら、判示第一の犯行に及んでいることに照らせば、この刑責が重いことはいうまでもない。ただ一方、被告人乙は現在二一歳と若年であること、当公判廷において反省の情を示していること、今後暴力団体とも縁を切る旨誓っていること、同被告人は本件後内妻と正式に婚姻し、同女が本年一二月出産予定であること、G宅に押し掛けるに至ったのは被告人丁の指示によるものであることなどは、被告人乙の刑を考えるうえで十分斟酌する必要がある。

被告人丙は、本件前、被告人甲らを事務所に集合させ、また、事件当日G宅に行くことを被告人丁に進言し、更に率先して判示第一の器物損壊行為に及ぶなど、同犯行に関し、被告人丙も準主犯といえること、しかも、昭和五三年ころから暴力団体の構成員となり、再犯前科二犯を含む前科三犯を有し、これまでの裁判において、暴力団体から脱退する旨誓いながら、これを果たさないまま組員として活動を続け、結局判示第一の犯行に及んだものであって、更生の意欲に欠けることは明白というべく、その刑責は重大である。ただ一方、被告人丙は当公判廷において一応反省の情を示し、今度こそ暴力団体から脱退すると誓っていること、同被告人自身積極的に行動しているとはいえ、G宅に押し掛けるに至ったのは被告人丁の指示によるものであることなどの事情が認められ、こうした事情は被告人丙に有利に斟酌されることはいうまでもない。

被告人丁は、暴力団体A会系の組長であって、本件共同器物損壊事件においては、その組長としての地位を利用し、配下組員である他の被告人らを従えて集団で被害者宅に押し掛けているばかりでなく、自ら率先して玄関明かり取りガラスを割るなどしていることが認められ、右のような状況に照らし、被告人丁は判示第一の犯行のまさに主犯として、更に、他の被告人らを右犯行に加担させたという意味においても、ほかの被告人らに比し同犯行に関してはその責任が一層重いことは明らかで、その罪責は極めて重大である。ただ一方、被告人丁は、昭和五五年以来前科前歴がなく、本件審理期間中に暴力団体の組織から脱退する手続を取り、今後復帰しない旨誓っていること、本件後内妻と正式に婚姻したこと、現在では一応反省の情を示していることなど、同被告人に有利に斟酌すべき事情も若干見出せる。

そこで、これら被告人四名に有利な一切の事情を総合し、また、判示第一の犯行に関しては、暴力団体組織における地位と右犯行における役割等をも合わせ考慮して、それぞれ前示のとおり刑を量定した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤 學 裁判官 河合健司 裁判官 近藤昌昭)

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